2015年08月26日
北朝鮮の挑発、中国から食糧とエネルギー支援引き出す狙いだった? 韓国は「朴槿恵大統領の大勝利」と自画自賛
 韓国と北朝鮮の対立で緊張が極度に高まっていた朝鮮半島情勢は、南北高官級接触(協議)での合意成立により、一気に対話局面に転換しました。
 軍事的な挑発と対話呼びかけを並行して行いながら、相手を自分の土俵に引き込んで「実利」を得るのは、北朝鮮の典型的な外交戦術。
 ただ、今回は北朝鮮が最も欲した「実利」が何だったのか、今ひとつ不明瞭な印象です。
20150826 金正恩=朝鮮中央通信 ロイター.jpg
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 合意に従い、北朝鮮は25日に「準戦時状態」を解除し、それを受けて韓国軍も最前線の部隊に発令していた最高警戒態勢のレベルを引き下げたそうです。

 韓国メディアによると、北朝鮮の最前線部隊では命令があれば即座に砲撃を開始できる態勢を維持していた砲兵が「平時」の態勢に戻ったほか、島嶼部の基地に設置されていた砲門の扉も閉じられているのが確認。

 北朝鮮の軍基地を離脱していた潜水艦・潜水艇約50隻もしつつあるとか。


 北朝鮮は、合意をまとめた「共同発表文」に地雷事件などに対する遺憾表明を明記し、北朝鮮の国営メディアも字句の修正なしに(北朝鮮は報道で1カ所だけ、勝手に文言を追加して報道しましたが、解釈変更に当たるようなものではありません)迅速に伝えていました。


 北朝鮮が挑発行為に対し「遺憾」を表明したこと自体が異例の対応であることから、朴槿恵政権は今回の合意について「歴史的な成果」と大喜び。

 韓国メディアも、朴槿恵大統領が高官級接触のすべてを監視カメラとマイクを通じて青瓦台でチェックしながら、時には韓国側代表団に直接指示を出したとした上で、「北に断固とした強い対応を貫いた朴大統領の勝利だ」とする論調が支配的です。


 さらに、韓国の軍事専門家からは、北朝鮮が「準戦時状態」を宣言しながら取った作戦準備行動について、偵察衛星や通信傍受などを通じて米韓両軍が詳細に観察、分析できたことから、「多数の有用な情報を収拾する好機になった」と指摘。

 韓国メディアの中には、「北が自らが(朝鮮半島)有事に軍をどう動かすか、手の内を明かしてくれた。若い金正恩第1書記の大きな失点だ」と報じたところもありました。


 確かにそういう面はあるでしょうが、それは金正恩氏も最初から分かっていた(当然、側近の軍高官からのアドバイスはあったはず)ことでしょうし、北朝鮮も当然、米韓に把握されたパターンの作戦行動計画については変更を加えるのは確実。

 これまで米韓に把握されていなかった弾道ミサイルや多連装砲の地下格納施設の場所を露出してしまったとされる点も、北朝鮮にとって今回の作戦の「コスト」なのかも知れません。

 しかし今回は、それだけの多大なコストをかけても、「朝鮮半島は一触即発の状態だ」と世界が感じるような極度の緊張した雰囲気を創り出す必要があったのではないでしょうか?


 南北非武装地帯の韓国側に地雷を仕掛け爆発させる事件(韓国軍兵士2人が重症)を起こし、韓国軍が「報復措置」として対北朝鮮宣伝放送を再開すると、今度は南北境界地域の山中などに「砲撃」を行った後、韓国が反発すると、これ見よがしに金正恩氏が前面に登場して「準戦時状態」宣言を実施‥。

 まるで緊張を創り出すことを目的に、非常に緻密に計画された「戦争演劇」という印象ですね。


 さらに、いきなり南北対話を申し込んできたのも北朝鮮側です。

 もちろん、万一、局地戦などの衝突に至った場合でも「責任は対話を拒絶した韓国側にある」と強弁できるよう画策した可能性もありますが、最大の目的は、世界の目をこの南北高官級接触(協議)に集めることだったのかも知れません。

 「戦争か平和か」という雰囲気の中で、その行方を決める舞台を創り出したわけですが、これも最初からの計画だったのとしたら?


 こうした疑問を解く上で面白かったのは、元米空軍将校で、2009〜2011年に米太平洋特殊作戦軍(SOCPAC)上級政務官を勤めたウィリアム・ジョンソン氏がロイター通信に書いていた分析記事です。

 ジョンソン氏はここで、今回の北朝鮮の行動は、中国から食糧やエネルギーなどの支援を引き出すのが主目的であり、わざわざ中国の嫌がる朝鮮半島の緊張状態を醸成し、金正恩政権が欲しいものを催促した、という見方を披露しています。


 中国が9月3日に抗日戦争勝利祝賀行事を予定し、同行事がいろいろな意味(もちろん中国の意図に批判的な意味)で国際的な注目を浴びていることを考えると、この分析にはかなり説得力がありますね。


 以下は記事の抜粋です。

 協議の本当の中身は、北朝鮮が中国から何を得たいかだ。
 北朝鮮は、食料と武器とエネルギーを中国に頼っている。
 そして中国は、北朝鮮の協力を引き出す時にはムチよりもアメを使う傾向がかなり強い。
 今回の北朝鮮の挑発行為は、資金と食料の不足がそもそもの原因だったと思われる。
 もしくは、可能性は低いが、中国政府の同国への冷淡な態度が原因だったかもしれない。
 今回の問題は南北軍事境界線に近い非武装地帯(DMZ)で起きていたが、実際には、南北関係よりも中朝関係に関係していたとみられる。

 北朝鮮で6月に起きた干ばつは、世界食糧計画(WFP)が推測していた以上に同国に打撃を与えただろう。
 北朝鮮は過去100年で最悪の干ばつだと表現していた。
 さらに、北朝鮮政府がエボラ出血熱の水際対策として数カ月にわたって実施した国境閉鎖は、同国の観光業に深刻な打撃を与えた。
 観光業は小さいとはいえ、貴重な外貨獲得源だ。
 こうしたことに加え、中国の習近平国家主席が北朝鮮の金正恩第1書記に冷たい態度を取ってきたことも、今回の暴発につながったとみていいだろう。
 資金と食料の不足に中国から愛想を尽かされたとの感情が重なれば、北朝鮮が挑発的行動に出ても驚くには値しない。

 2009年11月に起きた南北艦艇による銃撃戦の後は、食料支援物資(主にトウモロコシ)が鉄橋を渡って北朝鮮側に運ばれた。
 国境をはさみ、真新しい中国のトラックや重機が突然姿を現したのも目撃された。
 今回も同様のことが起きる公算が大きい。

 結局のところ、今回の出来事の大部分は食料と燃料の問題に由来していたと思われる。
 南北双方の顔が立つ合意に達した以上、中国は北朝鮮がそもそも望んでいたものを何でも提供すると筆者は予想する。
(ここまで抜粋して引用)


 どうですか。


 ところで、韓国メディアには珍しく、朝鮮日報の朴斗植(パク・トゥシク)論説委員が「南北合意、祝杯をあげるのは時期尚早」というコラムを載せ、朴槿恵政権のお祭りムードをいさめていました。

 コラムは、過去に繰り返された南北対話で、南北関係や核問題をめぐり多くの合意がなされ、自分たちメディアも「大きな成果」と報じてきたが、北朝鮮はそれらの合意文を「1枚の紙切れ」としか考えていなかった、と警告。

 今回の合意文についても、地雷埋設が北朝鮮の仕業とは書かれておらず、「地雷の爆発で南側の兵士が負傷したこと」に北朝鮮が遺憾の意を表明しただけであり、後になって北朝鮮が「犯行を認めた覚えはない」などと言い出しても、反論のしようがないだろう、とした上で、「合意よりも実行が重要だ」と強調しています。

 さらに、昨秋の仁川アジア大会の際、北朝鮮から3人の政府高官が閉会式に訪れただけで、南北関係の大きな転機であるように考え、後から大恥をかいたにも関わらず、今回も合意文書が発表されると、すぐ与党幹部らが「大統領が掲げる原則と信念の勝利」などと騒ぎ始めている、と指摘。

 「今から祝杯をあげていると、骨折り損に終わる可能性が高いことを忘れず、政府には今度こそ賢明な対応を期待したい」と韓国政府に慎重な対処を求めました。


 同紙は、朴槿恵政権に最も近い保守紙で、一時は「政権の機関紙」とまで言われたのですが、最近は結構、是々非々の論調も目立ちます。

 同紙は今回の南北合意を取り上げた社説の中で、評価する声がある一方で、「確かに北韓(北朝鮮)は遺憾の意を表明しているが、『合意文の表現では、第3者がけが人を見舞うようなものとしか受け取れない』という批判が出るのも当然だ」と指摘しました。

 さらに社説は、北朝鮮側の交渉担当者だった黄炳誓(ファン・ビョンソ)朝鮮人民軍総政治局長が南北協議を終えて平壌に帰投した直後、北朝鮮の国営テレビ番組に出演し、地雷問題について「南側(韓国)が根拠のない事件をでっち上げた」と述べ、北朝鮮の関与を全面的に否定していることを紹介しながら、「一部では『北朝鮮の誤った考え方を根本から正す絶好のチャンスを逃した』とし、合意を批判する声も出ている」として、評価が分かれていることも明記しています。
posted by 永遠の旅行者 at 22:03 | ソウル ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | 金正恩の北朝鮮、愛憎渦巻く韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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