2015年08月22日
北朝鮮、最前線部隊の軍事行動準備完了を表明 「最後の攻撃命令待っている」と韓国威嚇、中国けん制と朴槿恵訪中阻止も狙い? 
 聯合ニュースによると、北朝鮮の国営「朝鮮中央通信」は21日、「朝鮮人民軍の前線大連合部隊が軍事的行動準備を完了した」とし、「最後の攻撃命令を待っている」と報じました。
 同通信はさらに、「敵の反共和国(北朝鮮)心理戦放送の拠点と手段は現在、われわれの主体砲(自走砲)と放射砲(多連装ロケット砲)、ロケットなどの照準に入っている」と伝えました。
20150821 龍仁市の軍司令部を訪問した朴槿恵 青瓦台.jpg
(韓国軍の第3野戦軍司令部を訪問した朴槿恵大統領 青瓦台HPより)


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 これは、北朝鮮が対外用の国営メディアを通じて行う典型的な「心理戦」の一種ですね。

 相手を威嚇するような威勢のいい言葉を並べることで、朴槿恵大統領と韓国軍に強いプレッシャーをかけるとともに、韓国民に恐怖感を与える効果を狙ったものでしょう。

 普段でも、外交から軍事まで、こうした心理戦では、韓国よりも北朝鮮の方が一枚も二枚も上手です。


 ところで若い最高指導者の金正恩第1書記は、今回の事態の決着をどうつけるつもりなのでしょうか。


 1つは、韓国軍の宣伝放送用拡声器に砲撃を加えるケースが考えられます。

 北朝鮮にとって、大義名分が立つと同時に、米軍が直接乗り出してくるような戦闘拡大を防止する観点からは最適でしょうし、韓国側にとっても人命被害が出ないことから「都合が良い」と言えます。

 韓国軍としても、北朝鮮に報復攻撃を加える際、砲撃地点を算出するのが容易であることも、より望ましいシナリオでしょう。

 情勢を総合的に判断すれば、これが最も可能性が高いかも知れません。

 2つ目は、北朝鮮の朝鮮人民軍兵士が南北非武装地帯の韓国側区域内にある韓国軍監視所などに向かって銃撃や砲撃を加えるケース。

 今回、北朝鮮が「準戦時状態」入りを宣言していますが、過去にこうしたレベルまで緊張を高めたのは「ポプラ事件」や「第1次核危機」の時などに限られ、極めて異例の事態であることは間違いありません。

 こうした情勢を勘案すると、こうしたシナリオも十分に想定されます。

 また、若い金正恩氏が米韓の予想を超える「冒険主義者」である可能性も排除できず、その場合は非武装地帯にとどまらず、その外側で人口が少ない韓国の村周辺部に砲撃を行うシナリオもありますが、ここまで来ると米軍の報復攻撃にさらされる危険性を高めるので、普通ならやりませんが‥。

 3つ目は、黄海の軍事境界線と韓国が主張している「北方限界線」の南側(韓国が自国領域と主張する水域)に向けて砲撃を実施するケース。

 この水域は、北朝鮮側も「自国領域」と主張しているため大義名分も立つ上、過去にも砲撃を行っていることから、米軍を極度に刺激するのを回避できます。

 砲撃目標が海上であれば、韓国側にとっても被害がないため、ベターなシナリオですが、北朝鮮が「準戦時状態」入りを宣言した以上、今回、この程度で終わるのは考えがたいですね。

 北朝鮮による最近の一連の挑発が黄海ではなく、韓国本土で続いていることから考えても、こっちの可能性はどちらかというと薄いと思われます。


 4つ目は、2010年の延坪島(ヨンピョンド)砲撃のように、黄海の南北境界水域にある韓国の島を砲撃するケース。

 「準戦時状態」ということから考えれば、排除できないシナリオですが、先ほども書いたように、今回の状況からすると、やはり「黄海は対象外」というのが妥当な見方になるでしょう。



 5つ目は、北朝鮮が国営メディアを通じて行った昨日の発表通りに行動すると仮定した場合、朝鮮人民軍の複数の軍団による共同作戦が実施されることになります。

 前線の各軍団には司令官や作戦参謀がおり、それ自体で独立した指揮体系を備え、金正恩氏からの命令が伝達されれば、いつでも実戦入りできる体制が整っているはず。

 ところが、昨日の発表では、中央から前線に指揮官を派遣しており、これを素直に見れば「複数の軍団を統合運用する総指揮官の派遣」です。

 となると、全面戦争までは行かなくても、南北軍事境界線に沿って相当広い範囲にわたり、派手な軍事行動を起こす計画を持っていることになります。

 いわば、「局地戦」を想定していると考えても不思議ではありません。

 常識的に考えれば、米国を本気で怒らせる行為を実行するのは狂気の沙汰ですが、もしかしたら「恐怖政治」による国内統治に行き詰まりを感じた金正恩氏にとって、自らの求心力を高め、「金王朝」体制を維持する上で「必要」と判断した可能性も「ゼロ」とは言えないでしょう。

 まあ、北朝鮮の発表自体がかなりのブラフであり、このシナリオとなる可能性は低いでしょうが‥。


 6つ目は、米朝対話の場に米国を引き出すための新たな「カード」というものです。

 オバマ政権はここのところ、北朝鮮を制裁で封じ込める一方で、本気で対話に応じようとはせず、事実上の「放置戦略」を取っています。

 これは、核とミサイルをカードに米国と交渉し、世界最強国である米国から「体制の保証」を得て金王朝の安泰を図ることを国家目標としている北朝鮮にとって、非常に都合の悪い状態。

 そこで、任期末を迎えたオバマ政権としても、朝鮮半島での紛争勃発は防ぎたいでしょうから、金正恩氏がわざと軍事的緊張を高める事態を創り出すことによって、守りに入ったオバマ政権を再び朝鮮半島問題に取り組ませることを狙っている、というシナリオが成り立ちます。

 ある意味、サラミ戦術によるチキンゲームなので、米国が無視を決め込めば、武力挑発のレベルを順次高めていくつもりかも知れません。


 最後に7つ目として考えられるのは、中国に対するけん制です。

 北朝鮮は、金正恩氏の父親の金正日総書記時代までは、朝鮮戦争を共に戦った「血盟」として、中国と特別な関係を維持してきました。

 中国の方も、核放棄のためにもっと北朝鮮に圧力を加えるよう要求する日米の声を無視し、食糧やエネルギー援助はもちろん、特別な配慮をやめることはありませんでしたが、習近平政権発足後はがらりと様変わり。

 特に金正恩氏が中国の信頼を得ていた張成沢(チャン・ソンテク)氏を処刑(2013年12月)して以降、完全に関係が冷え込み、昨年は習近平国家主席が北朝鮮よりも先に韓国を訪問する事態に。

 そして、今回の砲撃は、朴槿恵大統領の中国訪問発表から約6時間後というタイミング。

 韓国との関係緊密化に動く中国を強くけん制する意味を込めた動きと解釈することも十分、可能です。

 さらに、当面、朝鮮半島の緊張を極度に高めることによって、9月3日に中国が大々的に開く予定の抗日戦争勝利記念行事に冷や水を浴びせてメンツをつぶすとともに、朴槿恵氏を訪中中止に追い込むことも狙っているのかも知れません。

 中国との対立も意にかけない金正恩氏の過去の行動や、「なぜ、この時期に突然、韓国への計画的な挑発を始めたのか?」という疑問を勘案すれば、このシナリオの妥当性も高いと思えますね。


 おそらく、北朝鮮の行動の動機は、上記のシナリオに内包される複数の理由を合わせたものと考えられますが、焦点の武力挑発の形態は、果たして、どのようなものになるのか、大いに注目されます。


 ところで韓国の最高指導者、朴槿恵大統領ですが、21日、前日の砲撃を受けて、ソウル近郊・京畿道竜仁市の第3野戦軍司令部を訪問し、「北のいかなる挑発にも徹底して断固対応せよ」と指示したものの、2010年11月の延坪島(ヨンピョンド)砲撃以来約5年ぶりの北朝鮮からの砲撃に直面したにしては、今ひとつ緊張感に欠けている印象ですね。


 聯合ニュースによると、韓国国防部の韓民求(ハン・ミング)長官は21日、北朝鮮の軍事挑発に関する国民向け談話を発表し、「国民の安全を最優先で守り、北による挑発の悪循環の輪を断ち切る」と表明。
 北朝鮮軍が非武装地帯(DMZ)の韓国側での地雷爆発事件に続き、20日に韓国に砲撃を行ったことについて「(朝鮮戦争)休戦協定と南北不可侵の合意に違反した重大な挑発。好戦性をあらわにした卑劣な犯罪行為」と非難し、対北朝鮮宣伝放送再開を口実に北朝鮮がさらなる挑発を行った場合、「断固、懲らしめ、手ひどい対価を支払わせる」と言明しました。

 一方、今回の砲撃事件を受け、国連軍司令部の軍事休戦委員会が20日、北朝鮮軍に対し対話を提案する通知文を送っていたそうです。
 通知文は「非武装地帯での砲撃は休戦協定に深刻に違反する」として自制を要求し、「首脳級対話に向けた大領(大佐)級の実務会談」を提案したものの、北朝鮮軍からの返答はないとか。


 韓国メディアによると、韓国軍と米軍は北朝鮮の砲撃に対応し、既に「共同局地挑発計画」に基づく対応を準備している模様。

 米韓両国が2013年に合意した同計画は、北朝鮮が韓国に「局地的な武力挑発」を行う場合を想定し、米韓両軍が迅速に対応するための作戦行動をまとめたものです。

 対北朝鮮全面戦争(いわゆる朝鮮半島有事)を想定した米軍の対応マニュアルとしては「作戦計画5027」という立派な計画がありますが、2010年の韓国・延坪島砲撃事件までは「局地的な武力挑発」に対応する計画がなく、これを契機に米韓両国で検討が行われました。


 もっとも、この「共同局地挑発計画」ですが、実態は、北朝鮮の武力挑発を受け、興奮した韓国軍が闇雲に暴走して事態の収拾がつかないまま全面戦争に発展するのを恐れた米国が、韓国軍の行動に歯止めをかけるためにつくった計画という意味合いも大きいのですが‥。

 今回は、その初適用の事例となるかも知れません。





posted by 永遠の旅行者 at 07:01 | ソウル | Comment(0) | TrackBack(0) | 金正恩の北朝鮮、愛憎渦巻く韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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